ジョンフランケンハイマーという監督がいて、その人の名前は「RONIN」という作品で知った。
「RONIN」は凄腕の殺し屋たちが集まって、銀のアタッシュケースを奪い合うという話で、ロバート・デニーロとジャン・レノが出ていたことと、カーチェイスがすさまじいことで、比較的有名。
当時19歳だったおれは、アルバイトとデッサンとシケモクと辻潤と80年代ハードコアパンクという極めてデカダンスな日々を送っており、今こうして書き出してみてわかったことだが、シケモクを除くこの時期の全てが自分の根底思想を形作っていて、バイト先のビデオ屋で誰も借りないような映画を淡々と借りるおれの姿に、バイトの同僚もはじめはかなり引いていた。
バイトの店長は映画監督を目指す、ツーブロックの几帳面でソリッドな映画人で、「フィツカラルド」や「カリガリ博士」を毎夜借りて帰るおれをとても気に入ってくれた。
「まついくん。これ名作」といって渡された「ミッドナイトエクスプレス」という映画があまりにもハードでホープレスな実録ものだったため、店長の「名作」にはかなり慎重だったのだが、かといって断る理由もなく、時間も無限にあったので、このときも「まついくん。これ、最高」といって渡された「RONIN」を観た。2階の屋根の鋼板にぶつかる雨音の中で。
ハードだった。ガチガチに男くさい映画だった。しかしハードさはいいとして、「RONIN」はなぜか心が受付けなかった。派手なだけでない骨太ないいシーンがあるのは解ったが、どうもしらけてしまう。店長には「会議中にテーブルから落ちていくコップを上からキャッチするところで、キャラの凄さを見せるあたりが燃えました」とディティールに逃げた。
昨日西武新宿線中井駅のホームでipodの町山智浩の映画評を聞いていたら、ジョンフランケンハイマーの話が出てきた。町山さんによると、フランケンハイマーは銃好き、カーレース好き、女好きで、どこに子供がいてもおかしくないほどの無茶苦茶な奴であり、カーチェイスを許可なしにいきなり市街地でやった「フレンチコネクション2」は、フランスまで悪人を追いかけていって、そいつを殺した瞬間映画が終わるというタフすぎる映画だ。ちなみに「パールハーバー」「トランスフォーマー」というどうしようもない映画の監督であるマイケルベイは、母から「あなたの父はジョンフランケンハイマーよ」といって育てられた。彼は未だ見ぬ父に憧れて映画監督になったのである。そしてフランケンハイマーに初めて会い「ぼくはあなたの息子です」と言ったところ「てめえなんか知るか」と言われ、かなしい思いをしていて同情しそうになるが、マイケルベイの撮る映画がどうしようもないのは客観的事実であり、つまり人間は悲しい思いをしていても作品があまりに駄目だったらまあどちらかというと駄目ということになるんだな、と思っていると、次第に「もしかしたらRONINは面白かったのではないか」という疑問が湧いてきて、今知ったフランケンハイマーの性格とマイケルベイのエピソードの影響がそう思わせているのだとしたら不純だろうか、などとぶつぶつ考えながら花小金井に向かった。
花小金井は台風で、元々なんの取柄もない駅前がますます退屈になっていて、この雨の中を役人に会いに行きますという自分の身の上を呪った。案の定役人はこちらを人とも思わない舐めきった態度で、よっぽど前蹴りを喰らわそうと考えたがやめ、帰り道、最悪の気分でまた各駅高田馬場行きに乗る直前に、なんとなくほんの少しだけ、フランケンハイマーのよさが解った気がしたのである。
