
映画。映画は良い。
映画というのは、それだけでもう良いものです。
映画狂いの人は、多い人で年に1000本という数の映画を観ます。
1日に3本くらい観ているわけです。
おれは十代後半のころ、基本は1日1本、3日で3本のペースで
映画を観るということをつづけていました。
この1本というのが、デカダンスなのです。
しかしあるとき急にギャング映画が好きになり、
あさましく15本一気に借りてしまったことがありました。
はじめは、毎晩繰り広げられる血肉を争う権力闘争に興奮し、
強気になって両切りの煙草を吸って青くなるなど、エキサイティングな恍惚がありました。
ですがそのうちに、「こいつは裏切る」「この娘は拉致られるか、もしくは爆死する」
「あの車は爆発する」など暴力的な展開を予測できるようになってきたのです。
それでも中毒して、夜になるとビデオデッキにガチャガチャとテープを入れてしまいます。
3日で7本ほど消化する頃には疲れきって、物語の細部も役者も音楽も観ていられなくなり、
全体としてなんとなく良い映画か悪い映画か、というぼんやりした鑑賞をするようになりました。
観終わってまた外に出てみるといつも気にしていることの大半の事柄、
すなわち次のメシのことであるとか着る服のことであるとか、
自分の将来のことであるとかそういうことが完全にどうでもよくなっているではありませんか。
そのかわりに、「ああカエルが轢かれているな」とか
「タクシーの運転手が涎を垂らして寝ているな」とか
「残っている雪に小便をかけようかな」などといったことを
薄ぼんやりと思い浮べながら、それを含めた全体、というか全宇宙が
「なんとなく良いか、なんとなく悪いか」、
これだけを、かけがえなく大切に感じるようになったのです。
よたよたとそのまま道路に出て土方で満席のハイエースにはねられても
面白ければOKという具合でした。
なにかを繰り返すと、あるとき急に、物事の輪郭が溶けていくということがあるのです。
おれの場合はギャング映画でした。
輪郭の無くなった世界は、ひとりきりです。
今のおれはいつのまにかきびきびと働いており
輪郭は直線の嵐ですが、毎日同じ生活をしていると、
ふと一切の些事が気にならなくなり、世界全体が、雰囲気だけになることがあります。
そしてそれを、なんとなく良いことだと思うのです。
今は一ヶ月に2本程しか映画を観ていませんが映画をみるといつでもそれを思い出すので
おれが映画を好きなのは、そういうわけなのです。
2009年7月16日木曜日
映画イズグッド
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